民族対立の根深さを描いた作品である。
舞台はオランダはアムステルダム。
たまたま知り合ったユダヤ人のパン屋ハンスと、パレスチナ人学生
マフムードの友情と破局……破局と書くと恋愛ものみたいだな……の物語、
といえば、まあだいたい見当はつく。
知り合った時のマフムードの強い憎悪、その後彼がアムステルダムでの
生活に少しずつ慣れ、丸くなっていくさま、隠されていた二人の過去、と、
物語は予想通りに展開する。
言うまでもないことだが、予想出来るからつまらないということではない。
それぞれがどんな過去を抱えているのかとか、この先どんなやり取りがある
のかとかはもちろん分からないし。
ただ、チラシにある「衝撃の結末」を見て感じるのは、驚きより哀しみである。
「ああ、やっぱりなあ」という。
パレスチナ問題の複雑さ、根深さを思うと、深いため息が出る。
A「○○人は嫌いだ、でもおまえは好きだ」
と、
B「おまえは好きだ、でも○○人は嫌いだ」
語順が違うだけだが、この違いが多分大きな結果の違いを生むんじゃないの
だろうか。
ある人たちを一括りにすると、一人一人の顔は見えにくくなる。
逆に、個人個人を知って尚、集団への憎しみを強固に持ち続けるのは難しい。
(逆に、個人への憎しみを募らせることはあるだろう)
A → もしかしたら他にも好きな○○人がいるかも、となる(かもしれない)か、
B → だからやっぱり許せない、となる(かもしれない)か。
狭い世界で暮らしがちな日本人は、こういう作品を見ておく必要があるのかも
しれない。
アメリカで高く評価された作品だということだが、もしかしたら一部省略
されてるのかもしれない。
というのは、マフムードの恋の描かれ方が割と簡単に見えたから。
彼はオランダ人女性ノラに恋して、彼女と暮らすようになる。
敬虔なイスラム教徒なのに、異教徒に恋して悩まないんだろうか。
や、恋に落ちるのは一瞬でいい。理屈も抜きでいいとして、問題はその後だ。
「女房と子供」発言がそんなにすんなり出ていいのかね?
宗教の違いは(ノラは信仰がないことになっていたが)どうなるんだよ?
てか、自分の抱えている過去を考えたら、そう簡単に家庭を持つとはいえない
……というか、持ちたいけど持っていいのか、というようなことを考えて
然るべきだと思うんだが。
ノラと子供は、最後にはマフムードにとって抜き差しならない問題になるのだが、
そんなのは当然予想のできることのように思われるんだよな、初めから。
マフムードは魅力的な青年に描かれてはいるが、ヒジョーに意地の悪い
見方をすれば、結局のところ彼は「自分のしたことや後先を考えず、訳の
わかってない外国人に手を出して妊娠させた挙句に放り出す男」になって
しまってはいないか。
ノラが事の重大さを全然分かってないというのも確かにあるが、そら彼女
には理解出来ないだろうさ。自分の問題じゃないんだから。
(それがいいかどうかは別として)
これが同じパレスチナ出身の女性であれば、もう少し事情を察せてもいいの
かもしれないけど。
付け加えれば、ダンサーだったノラの方に葛藤はなかったのだろうか。
自分は踊り手としてはだめだと自嘲する場面があるが、今まで踊り続けて
きたということは、それなりに情熱があったってことじゃないのか。
それを、すんなり諦めることが出来た理由がちょっと見えにくい。
何せ二人の恋愛は展開が早すぎるので、真剣味より無鉄砲の印象の方が
強いのだ。
それと、平穏な日々が後の悲劇を際立てるんだが、兄が現れた時点で、
「そんなに筒抜けだったんだ!」「じゃあ、何で今まで平和に暮らしてられた
んだ?」とは思った。
マフムードの細かい足取りは観客には知らされてないので、彼がどういった
立場・状況にあるのかははっきりとは分からない、ゆえに事態の深刻さも
掴みにくい。
さらに言えば、マフムードが血の繋がりから逃れられないのは確かだとしても、
アムスで事を起こせば今度は法律に裁かれることになり、としたらあれこれ
明らかになるわけだから、ノラが危険にさらされることには変わりがない
んじゃないのかなぁ。
なんだかちょっと釈然としない。
長くなったので、続く。